ねじまき鳥クロニクル
著:村上春樹/出版:新潮社
突然、村上春樹が読みたくなり、夏は1Q84、冬はノルウェイの森と決めているのでこのタイミングで読むならば…ということで再読。
村上春樹を好きな人が好きな作品として挙げることも多い作品であるが、どうも完全に好きになりきれない。特に主人公(僕)とクミコの関係性が飲み込みきれない。いかなる理由があれ、パートナーが突然姿を消すその描写が本当に苦しい。
ただし、現在と戦時中が交錯し、そこに全くの違和感も残さないまま物語が展開していくさまは気持ちがいい。村上春樹の長編作品の代表作にこの作品を挙げる人が絶えないのも頷ける。
とは言え、全体的に横たわる薄気味悪さ、ジメジメ感がやはりどうも性に合わないので大人しく海辺のカフカと1Q84で満足しておこうと思う。
自由民主主義とは何か
著:田中拓道/出版:筑摩書房
日本を代表する比較政治や福祉国家論の研究者の一人による自由民主主義についての解説書。院生時代に田中先生の授業を取っていたこともあり、面白く読んだ。
しかし、タイトルに釣られてはいけない。「自由民主主義とは何か」という問いの答え方にクセがあることは事実だろう。自由民主主義がどのように成立したのかを歴史を読み解きながら明らかにしていく一冊だ。
そして、自由民主主義とは言いつつも、その定義の多元性や成立に至る歴史的な背景がヨーロッパとアメリカでも異なるなど、「自由民主主義」と言った時に、その言葉がどんなコンテクストの上に成り立っているのかを意識して使うことが必要なのだと思う。
Moral Ambition
著:Rutger Bregman/出版:Bloomsbury Publishing
『Humankind』でも知られる歴史学者、ルトガー・ブレグマンの最新作。邦訳が待てなくて原点で読んだ。後に日本語で「倫理的野心」という訳語が当てられるmoral ambitionはそこまで難しいことは言っていない。
エリートこそ、その才能をブルシット・ジョブで浪費することなく、倫理的にその野心を活用すべし!そして世界をより良くしよう!と叫ぶ一冊だ。自己啓発書に近いのかもしれない。
これまでの自己啓発書との差異は、「労働による自己実現」という構図から、「労働のアウトカムによる自己実現」へと転換している点ではないだろうか。いい会社で働く、よりよい給料を得る、そうして公私ともに自己実現を目指すのではない。会社は手段で、そこで成し得ることを目的とする点が新しいと思う。
「ノブレス・オブリージュ」という言葉が流行る割には富める者の義務、務めという意識が希薄な日本でこそ、読まれ、議論が進むことが望まれる。
自由と平等――「正義」のための設計図
著:ダニエル・チャンドラー/出版:早川書房
なんとなくかっこいいからロールズの『正義論』を手元に置きつつもちゃんと読んだことがない人も多いかもしれない(少なくとも私はその一人)。そんな人が読んだ気になってかつ、その実装についても論じられる一石二鳥な一冊がこの『自由と平等』だ。
ロールズの抽象的な議論を、選挙制度や格差など、アクチュアルな問題に論点を整理した一冊。格差の問題については結局UBI(Universal Basic Income)にたどり着くのは議論の正確さで言えばそうであろうと思いつつ、その提案にどこまでのリアリティがあるのかは問われる気がする。それでも、ここまで難解な議論を現実の問題に着地させたその思考力と深い洞察に感動してしまう。
哲学をはじめ、人文社会科学を社会に役立てる(実装する)方法のロールモデルの1つになり得る一冊。
「AIリスク」の解剖――決定と責任を社会学的に考える
著:佐久間弘明/出版:中央経済社
AIリスクが声高に叫ばれるようになって久しい。しかし、一体全体「AIリスク」とは何だろうか。少し冷静に、かつ俯瞰して、即ち社会学的に観察してみると何が見えるだろうか。この本はその問いに答えを出す一冊だ。
この本で重要な概念は、「フレーミング」だ。言説がどのように捉えられているのか、そしてそれがどのように語られているかを分析するために使われる概念だ。社会学では、アーヴィング・ゴフマンによるフレーム分析で知られている。
フレーミングの分析を行ったうえで著者は、フレーミングを用いた未来予測、「フレーミング予測」を提案する。未来予測の方法にはSF思考など様々あるが、社会学というアクチュアリティが重要なディシプリンが導出できる、ある意味で堅実な予測の方法のように思える。
生成AIの影響がいよいよ雇用、採用にも現れ始めている今、問題の把握とこれからを考える上で読んでおきたい一冊。